馬歩について書いてきましたが、もう一つの弓歩に話を戻しましょう。
中国武術には、モンゴル以外にもう一つふるさとがあります。
インドです。
少林拳は、仏教に付随して中国に伝来した、ということになっています。
実際は、ヨガやインド武術が中国にわたり、現地の事情に合わせて交配、取捨選択が行われて土着化したと言ったほうがより正しいのでしょう。
気功にしても、もともと中国にあった道家系の導引が渡来したヨガと折衷されて少林気功になったと考えるのが自然です。
そのヨガの中にある、英雄のポーズというのが実は弓歩と酷似しているのです。
角度には差異があるものの、両腕を大きく伸ばして胸を開くその姿勢において、内側で働く力は弓歩で用いられる勁と同様の物だと推測できます。
このようにして配合されたインド経由のヨガ武術と、モンゴルの騎馬、弓術が合わさり、徒手格技となったことには疑問を挟む余地がないように思われます。
この徒手格技は、万里の頂上より南では拳法となり、北ではブフであった訳です。
ちなみに、日本でも男児のたしなみとして、弓馬の術のほかに相撲がありますが、相撲もまたルーツはモンゴルだと言われています。
だとするとますます、弓も引かず、馬にも乗らない現代日本人からすると、本当に日本古武術を理解するのは難しくなってゆくことでしょう。
ただ、それはすでに江戸期の武士にとっても同様で、市中に弓を持ち込むことがご法度となったり馬に乗ることが規制されたりして、多くの武術が道場のみで学べるようにコンパクトに改変されていったのは想像に難くありません。
そのような経緯を経て、日本武術では内側の練功の要素が消えていったのでしょう。
結果、手持ちの札の数で勝負を求めるような、秘太刀や秘伝の技に頼る体系に変化が起きたのだと思われます。
江戸期以前から行われていた本当に古い技を理解するには、弓馬への理解が欠かせないように思われます。
ぜひ、機会があれば弓を引いてみるのが良いのではないでしょうか。
また、この長い文の初めのほうに、エクストリーム・スポーツの選手にも勁がある人が居ると書きましたが、これ、改めて振り返ると弓と対になる馬の部分に由来してくる気がします。
私が知っている彼らは、ボーダーや自転車、オートバイの選手たちでした。
重心の浮きと沈みを十全に活用している人たちです。
そっち側からの武術へのアプローチというのも面白そうなテーマです。
内功による内側の力の発達は、きちんとした指導者がいないと神経に問題をきたしたり健康状態に悪影響を与えるケースが非常に多いです。むしろ、弓とエクストリーム・スポーツのほうが総合的に見て有用であるかもしれません。
志ある現代の追求者の方、よろしければ、ぜひ!